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『日本残酷物語』を読む

『日本残酷物語』を読む

宮本常一と谷川健一が中心となって編んだ『日本残酷物語』。「残酷」という切り口で、彼らが描出を試みたのはどんな「日本」なのか。

畑中 章宏
シリーズ・巻次 平凡社新書  774
出版年月 2015/05
ISBN 9784582857740
Cコード・NDCコード 0239   NDC 380.1
判型・ページ数 新書   232ページ
在庫 在庫あり
定価880円(本体800円+税)

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この本の内容
目次

高度成長の坂道を登りつつあった昭和三十年代半ば、宮本常一、谷川健一らが中心となって平凡社から刊行された『日本残酷物語』。名もなき民衆の営みを「物語」として記録した、
この叢書はその後の民衆史、生活史のみならず、記録文学などにも大きな影響を与えた。「残酷」という視点から描きだされたのは、果たして、いかなる「日本」だったか。

はじめに

第一章 宮本常一と谷川健一
1、「残酷」とはなにか
さまざまな「残酷」/「美」と「残酷」/民話と民衆/『民話』という雑誌
2、新しい民衆史を求めて
四人の監修者/谷川健一と民俗学/谷川からみた柳田と宮本/「民俗学」の企画
渋沢敬三邸で/「民俗学」にたいする疑問
3、庶民の風土記を──『風土記日本』
『風土記日本』の構想/庶民による庶民の歴史/唯物史観への疑義
4、「残酷」という話題──『日本残酷物語』
『風土記日本』から『日本残酷物語』へ/リラダンの『残酷物語』
下中彌三郎/署名か無署名か/編集者たち/残酷ブームの到来

第二章 「民衆」はいかに描かれてきたか
1、下層社会報告とプロレタリア文学
「残酷もの」の草分け/松原岩五郎『最暗黒の東京』
横山源之助『日本の下層社会』と農商務省『職工事情』/細井和喜蔵『女工哀史』
今和次郎『大東京案内』/賀川豊彦『貧民心理の研究』/プロレタリア文学
2、民衆と民俗学
長塚節『土』と農民文学/小山勝清の農村と民俗/柳田国男と「民衆史」
毎日ライブラリー『日本人』
3、一九六〇年前後──高度経済成長へ
昭和史論争/高度経済成長のさなか
「岩戸景気」と『三丁目の夕日』/「六〇年安保」の前後

第三章 最暗黒の「近代」──飢餓・棄民・災害
1、弱きものをめぐって──『貧しき人々のむれ』
掠奪者、乞食、遊女で満ちた国/海民の掠奪、山民の掠奪/飢饉国日本
風土病の恐怖/乞食の流れ/子どもと老人/女性の地位と労働/遊女たち
2、開拓と忘却の歴史──『忘れられた土地』
不幸なできごとをとおして/対馬にて/世界苦と離島苦/島の痛み
山民の生活/不毛な大地
3、さまざまな迫害──『鎖国の悲劇』
閉ざされた社会/差別問題を取りあげる/「かくれキリシタン」の民俗/異端の仏教徒
4、開化と停滞──『保障なき社会』
「近世」から「近代」へ/三陸大津波/天災列島/移民の群れ
鉄道が引きさいたこと/庶民・武士・アイヌ
5、女工・貧民・廃兵──『近代の暗黒』
東北大凶作/飢饉と米騒動/女工たち/坑夫たち/貧民窟にて/隣人と廃兵

第四章 矛盾と分裂の「現代」──公害・搾取・災害
1、疎外された人々──『引き裂かれた時代』
疎外を生きる/コンベアの奴隷たち/公害の時代/つくられる水害/「原子あと」の差別
2、小さな残酷──『不幸な若者たち』
日本近代の農村と農民/未来なき若者たち/忘れられた子どもたち/小さな自殺
逓信講習所の仲間たち/測手・自衛官・警官/テロリズムとレッド・パージ/読後感と評価

第五章 民衆の手触りを求めて──民衆史、生活史その後
編集者宮本常一/その後の谷川健一/網野善彦による評価
松谷みよ子『現代民話考』/宮本常一と「転向」/民俗学と民衆史
『遠野物語』と『日本残酷物語』/宮本常一の残酷物語

あとがき
参考・引用文献一覧