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ロマンポルノと実録やくざ映画

ロマンポルノと実録やくざ映画

禁じられた70年代日本映画

樋口尚文
シリーズ・巻次 平凡社新書  476
出版年月 2009/07
ISBN 9784582854763
Cコード・NDCコード 0274   NDC 778.21
判型・ページ数 新書   320ページ
在庫 現在品切中
定価990円(本体900円+税)

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この本の内容
目次
邦画界が「洋高邦低」の冬の時代に突入した70年代は、ロマンポルノと実録やくざ映画の全盛期でもあった。その多彩な映画表現は今日の邦画界の去勢を衝いて余りある、と熱く説いた稀書。 日本映画が興行として崩壊の極地に陥落した70年代、全国津々浦々の映画館に怒涛のごとくなだれ込んだのは、どぎつい性とハードな暴力描写を売る一群だった。おびただしく量産された作品の中から厳選に厳選した110本。映画表現としての画期をつぶさに解像、当時の映画館そのままに「雑然」の魅力を再現した。
はじめに──七〇年代プログラム・ピクチャーの頽廃と挑発

第1章 セックスとバイオレンスの饗宴

1 実録やくざ路線のバイオレンス
「実録」前夜の不穏な地鳴り──「顔役」 
実録表現の臨界と安全弁──「人斬り与太狂犬三兄弟」 
暴力なき映画に沸騰する「暴力性」──「仁義なき戦い代理戦争」 
性と暴力に呑まれきった異端作──「実録・私設銀座警察」 
「実録」を口実にしたアナーキーさの深淵──「仁義の墓場」 
強者の論理に抗う処刑の「映像」──「北陸代理戦争」 

2 ロマンポルノ路線の挑発と抒情
軟体動物的な映画の増殖──「濡れた欲情特出し21人」 
七〇年代の空虚を抽出した性的詩篇──「(マル)秘 色情めす市場」 
活劇としての性と暴力──「犯す!」 
煽情性を濾過した性の衝迫──「人妻集団暴行致死事件」 
ロマンポルノが拓いたメロドラマの領分──「さすらいの恋人眩暈」 
奇異な輝きを発するロマンポルノ地獄篇──「昼下りの女挑発!!」 

3 性が起爆させるバイオレンス
猥褻と衝撃を隔てるものは──「女地獄森は濡れた」 
性愛から発想されたやくざ映画──「やくざ観音情女仁義」 
エログロを極めてナンセンスの闘争へ──「やさぐれ姐御伝総括リンチ」 
純度高き性表現のロマンティシズム──「レイプ25時暴姦」 
性と暴力で語りきる人間の業──「天使の欲望」 


第2章 狂い咲くジャンルの妙味

1 青春のニヒルな彷徨
無力感に充ちたさすらいの航海──「八月の濡れた砂」 
不発の青春を刻む掌篇──「ポルノの女王にっぽんSEX旅行」 
甘いアイドル映画に秘められた痛覚の脇差──「急げ!若者」 
「四畳半」的ウェットを打破する乾いた眼差し──「四畳半青春硝子張り」 
青春の疼痛に満ちたロマンポルノ──「新宿乱れ街いくまで待って」「トルコ
110番悶絶くらげ」 

2 アクションの新生面とカンフーブーム
クールで端正なアクションの開拓者──「白昼の襲撃」「豹は走った」 
映像が活劇を追い越した──「野獣狩り」 
カンフーから戯作への漸進的横滑り──「直撃地獄拳大逆転」 
バイオレンスの怨念を払った陽性のアクション──「資金源強奪」 

3 エロスと残酷の時代劇
どぎつさときわどさへの傾斜──「蜘蛛の湯女」「戦国ロック疾風の女たち」 
陽性のエログロづくしで詠う反権力の詩──「将軍と二十一人の愛妾」「徳川セッ
クス禁止令色情大名」 
劇画発の東宝映画のダーク・ゾーン──「御用牙かみそり半蔵地獄責め」
「子連れ狼地獄へ行くぞ!大五郎」 
お色気と活劇で賑やかす戯作の執念──「ポルノ時代劇忘八武士道」
「下苅り半次郎(マル)秘 観音を探せ」 

4 スケバンと戦闘少女の割拠
劇画性が降臨させた反権力ヒロイン──「0課の女赤い手錠」 
ニヒルに脱力したスケバン路線──「番格ロック」 
不能感の虚空を撃つ少女──「横須賀男狩り少女・悦楽」 

5 カーアクションの模索
スターとギャランGTOが爆走すると──「3000キロの罠」 
イメージショットはアクションの敵──「ヘアピン・サーカス」 
予算ならぬ語りの力で駆動する爆走映画──「暴走パニック大激突」「狂った野
獣」 
獰猛になりきれなかったカーチェイス──「ダブル・クラッチ」 

6 メロドラマとラブロマンスの光芒
流行の「難病物」を抑えたタッチで──「ボクは五才」「ママいつまでも生きて
ね」 
澄明なメロドラマへのまなざし──「挽歌」 
巨匠の奇作に見るテレビの影──「スリランカの愛と別れ」 

7 本格探偵ミステリと社会派サスペンスの競作
実験性が実った清張映画の最高峰──「影の車」 
旅と風景と情念と──「内海の輪」 
社会派転じて憂愁のアクションに──「動脈列島」 
ごった煮的な語りが生むキワモノの勢い──「実録三億円事件時効成立」 
騒動と物議にまみれた静謐なサスペンス──「錆びた炎」 
無頼派の道化の精神が生きた傑作──「不連続殺人事件」 
幻のスクリーンサイズでのぞいた倒錯美──「江戸川乱歩の陰獣」 

8 怪談からオカルトへ
「怪談映画」最後のアングラ的変化球──「怪談昇り竜」 
少女マンガ的ゴシック趣味が薫る和製ドラキュラ──「血を吸う薔薇」 
キッチュへの敬虔なる殉教──「怪猫トルコ風呂」 

9 洋画ふうソフィスティケーション
洋画のアイドル子役でパフェのような邦画を──「卒業旅行 Little
Adventure」 
奇異な物語の洋画ふうサスペンス──「雨のアムステルダム」 
ボンドガールとジュリーのアバンチュール──「パリの哀愁」 

10 おまけ短篇と編成の妙
旬のアイドルとアイテムの愉しいおまけ──「太陽の恋人アグネス・ラム」
     「池沢さとしと世界のスーパーカー」「ゴッド・スピード・ユー!
BLACK EMPEROR」 
洋画を組み合わせる強引な興行センス──「宇宙人は地球にいた」「激突!」「イ
エロー・ドッグ」 


第3章 異文化と映画のスパーク

1 マンガ・劇画への挑戦
伝説のマンガへの厳粛なる接近──「あしたのジョー」 
異色劇画から表現のタッチを裏ごしすると──「銭ゲバ」 
芳醇なるエロスとロマンティシズムの小函──「玉割り人ゆき」「玉割り人ゆき西
の廓夕月楼」 
荒唐無稽から立ちのぼる爽快な抒情──「嗚呼!!花の応援団」「博多っ子純情」 

2 歌謡曲・演歌・ポップスの抒情
安手だがいごこちのいいメロドラマ空間──「夜の歌謡シリーズなみだ恋」 
鷹揚な職人監督の肺活量──「昭和枯れすすき」 
知的ですっとぼけたユーモアの遠心力──「濡れた欲情ひらけ!チューリップ」 
七〇年代屈指の煮詰められた青春──「帰らざる日々」 

3 文芸作品の触発
青春を「生きる」ならぬ「なぞる」映画──「二十歳の原点」 
無表情に刺さり続ける低温の破片──「櫛の火」 
トリュフォー映画のヒロインが辻邦生を演じたら──「北の岬」 


第4章 日本映画の世代交代

1 撮影所の外からの新しい波
個人映画でハリウッドをめざす異才──「HOUSE」 
アングラを劇画性に変圧した熱血の快作──「ボクサー」 
富士山マークのアメリカン・ニューシネマ──「オレンジロード急行」 
パンク8ミリ映画の銀幕ジャック──「高校大パニック」 

2 時代を浮遊する女優たち
秋吉久美子、七〇年代そのもののイコン──「赤ちょうちん」「妹」「バージンブ
ルース」 
梶芽衣子、運命が生んだアサシンの貌──「女囚さそりけもの部屋」
「ジーンズブルース明日なき無頼派」 
桃井かおりのナイーブな柔らかい殻──「赤い鳥逃げた?」「エロスは甘き香り」
 
山科ゆり、定まらなさの磁力──「昼下がりの情事古都曼陀羅」「濡れた荒野を走
れ」 
原田美枝子と性的な引力──「恋は緑の風の中」 
水原ゆう紀、名美をかく語りき──「天使のはらわた赤い教室」 
島村佳江の妖気漂う眼──「西陣心中」「十八歳、海へ」 

3 新型アイドルの誕生
山口百恵、危うさの艶──「伊豆の踊子」 
高沢順子、キュートで舌足らずな革命分子──「新・同棲時代愛のくらし」「本陣
殺人事件」 
泉じゅん、ロマンポルノのアイドルが秘めし妖しさ──「感じるんです」「犬神の
悪霊」 
岡田奈々、虚構の磁場を呼ぶ巫女──「青春の構図」「暴力戦士」 

4 社会からはぐれゆく男優たち
萩原健一、気分次第で閃いて──「青春の蹉跌」 
松田優作、「人間人形」の切れ味──「あばよダチ公」「最も危険な遊戯」 
原田芳雄の幽体離脱的な演技──「悲愁物語」 
郷ひろみの傷ましい無知の涙──「さらば夏の光よ」「突然、嵐のように」 

おわりに